麻酔科学教室について

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研究活動

基礎研究

痛みの基礎研究 ラットを用いた薬物の鎮痛効果の検討 山本達郎教授

1,神経障害痛モデルであるTibial neuroma transposion (TNT)モデルを用いた研究
 神経障害痛は、神経が傷害された時・機能障害を起こした時に発症する痛みです。代表的な疾患には、糖尿病性ニューロパシー・帯状疱疹後神経痛・幻肢痛・抗がん剤による神経障害後の痛みなどがあります。神経障害痛は難治性の痛みです。多くの学会が様々な治療ガイドラインを作成していますが、いずれのガイドラインを用いても50~60%程度の患者しか治療効果が見られません。このため、痛み治療の現場では大きな問題となっています。
TNTモデルは、神経障害痛のモデルとして2008年に報告された新しい神経障害痛の動物実験モデルです。このモデルは、ラットの脛骨神経を切断し、その断端を下腿外側の皮下に埋め込んで作成します。この神経損傷を作成すると断端を埋め込んだ部位に神経鞘腫(neuroma)ができます。この神経鞘腫部を刺激すると、強い痛み行動を示します。この痛み(neuroma pain)が、四肢を切断した後に発症する断端部の痛みのモデルになると考えられています。またこの神経損傷により、足底にアロディニア(痛みを生じない触る感覚が痛みとなる状態)を発症します。アロディニアは神経障害痛患者でしばしば見られる痛みです。このように、このモデルは、一匹のモデル動物で2種類の神経障害痛を見ることができるのが特徴です。
このモデルを用いて、ガイドラインに報告されている薬物の効果を検討しています。多くの薬物がアロディニアには有効ですが、neuroma painには無効です。薬物により、有効な痛みが異なることが、臨床で治療効果が上がらない原因と考えています。今後は、いずれの神経障害痛に対しても有効な薬物の追求。開発を目指しています。

2,N-acetyl-aspartyl-glutamate (NAAG) 分解酵素阻害薬の鎮痛効果
 NAAGは哺乳動物の中枢神経で3番目に多い神経伝達物質です。NAAGが分解されることによりNAAとグルタミン酸に分解されます。NAAの役割は分かっていませんが、グルタミン酸はさらに神経伝達物質として働きます。このため、NAAG自身の役割を研究することが難しかったのです。このため、多くの人があまり注目してきませんでした。最近は、NAAGがグルタミン酸受容体の一つのmGluR3を活性化する作用が分かってきています。またNAAGの研究をするツールとして、NAAG分解酵素阻害薬が導入されました。NAAG分解酵素阻害薬を用いると分解産物であるグルタミン酸が増加することなく、内因性のNAAGが増加させることが出来ます。このようにして、生体内でのNAAGの役割が検討されてきています。
 NAAGが慢性痛と関係あることが示唆されてきています。NAAGの分解産物であるNAAの濃度をMRI装置により人で測定することが出来ます。慢性痛患者では、NAA濃度が低くなっています。このことは、慢性痛とNAAGが関係している可能性を強く示唆しています。mGluR3作動物質は、シナプスでのグルタミン酸などの神経伝達物質の放出が抑制され、この結果として痛みが抑制されることが知られています。従って、NAAG分解酵素阻害薬は鎮痛効果があることが予想されました。実際に私たちは、多くの痛みの実験モデルを用いて、NAAG分解酵素阻害薬の鎮痛効果を報告してきています。

3,モルヒネの退薬症状発症のメカニズムの検討
 患者にモルヒネなどの麻薬系鎮痛薬を使用することが多くなってきています。この際問題となることに、退薬症状があります。退薬症状は、急に麻薬系鎮痛薬投与を中断した際に発症する、震え・腹痛などの症状です。
 動物では、麻薬系鎮痛薬を1週間程度継続して投与し、その後にナロキソン(麻薬受容体拮抗薬)を投与することにより発症させることが出来ます。このモデルを用いて、バルプロ酸が退薬症状を抑制することを報告してきています。また、退薬症状とグリア細胞の関係を検討しています。

侵入時におけるインスリン抵抗性と臓器障害 分子生物学的アプローチ 杉田道子講師

現在主にストレス惹起インスリン抵抗性血管内皮障害に対するRas阻害剤(ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤)の治療効果についての検討を行っている。血管内皮障害はインスリン抵抗性における重要臓器障害の主要因である。ターゲットとなるシグナルについてはNitrosative stress、PI-3kinase→eNOS経路、NF-kBを介した過剰なiNOSによるNO発生、Akt/PKBなどがこれまで報告されてきた。一方HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)のlipid-lowering-independent effectがタンパクのファルネシル化抑制とされている。ファルネシルトランスフェラーセ阻害剤で血管内皮障害を抑制できれば、さらにはスタチンの血管内皮障害治療への期待も広がることになる。
重症患者モデルとしてLPSマウスを用い、RAS阻害剤であるFTI-277を腹腔内投与し、血管内皮障害への治療効果およびメカニズムについて、血管収縮弛緩反応、ウェスタンブロット法、免疫染色法にて解析を行っている。

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臨床研究

ペインクリニックにおける慢性疼痛患者と心理社会的要因 心身医学的アプローチ 田代雅文講師

現在の臨床テーマとしては、従来からの薬物療法、神経ブロック治療に反応が乏しい慢性難治性疼痛患者に対して、心身医学的な評価と治療を行っている。生物学的モデルからみて、器質的病変は軽快・消失していると思われるのに、痛みを訴える患者をどうとらえればよいのであろうか。
もちろん鎮痛薬への反応性が悪いものの中には、神経障害性疼痛患者が含まれているので、鎮痛補助薬の使用が効果的であろう。それらを鑑別除外していくと、心理社会的背景の関与が問題となる。
痛みという言葉で、患者が何を訴えているのかを理解することが解決の糸口となる。痛みに対する破局的思考、恐怖—回避モデル、抑うつ、心身症の中核概念であるアレキシサイミア(失感情症)、性格的な傾向としての強迫性、完璧主義、過剰適応、過活動(ペース配分の異常)、家族関係、虐待歴などから多面的に評価している。
治療においては、面接でライフレビューをとり、カウンセリング、自律訓練法、交流分析、アサーション・トレーニング、MBSR: Mindfulness-Based Stress Reduction(マインドフルネスストレス低減法)などを行っている。
今後はマインドフルネスの概念を取り入れた行動療法であるACT: Acceptance and Commitment Therapy(アクト;アクセプタンス&コミットメントセラピー)やDBT: Dialectical Behavior Therapy(弁証法的行動療法)に取り組んでいきたい。

体性交感神経反射を用いた痛みの評価 各種薬剤の影響 生田義浩講師

手術中には様々な自律神経反射が生じています。その変化を捉えることで循環動態の変化を抑える工夫を行ってきました。
また、自律神経反射の応用で痛みの臨床的評価法の一部が可能ではないかと考え日々評価しています。
現在は術後の痛みを軽減するための評価法確立を目指しています。

手術室環境ガスモニタによる手術室の環境整備・麻酔器の影響 生田義浩講師

手術室への吸入麻酔薬の漏洩等を発見し、手術室環境整備を行う工夫をしています。
また、環境ガスモニタの変化を応用して麻酔器の特性等を評価しています。

筋弛緩薬・筋弛緩拮抗薬の効果に及ぼす患者要因の研究 藤本昌史大学院生

筋弛緩薬は全身麻酔管理に不可欠であるが、その作用遷延による覚醒遅延や術後合併症が、特に高齢者や肝機能低下患者、重症筋無力症患者では問題となる。
また近年、筋弛緩拮抗薬としてスガマデクスが日本でも導入された。しかしながら、加齢や肝・腎機能などの患者要因および重症筋無力症などの神経筋疾患がスガマデクスを用いた筋弛緩状態からの回復へ及ぼす影響は未だ十分検討されていない。
本研究では、主に筋弛緩モニターを用いて、加齢や肝腎疾患、重症筋無力症などの神経筋疾患が筋弛緩薬・筋弛緩拮抗薬の効果に及ぼす影響について検討している。
これまで、ロクロニウムの作用持続時間は正常肝機能を示す肝癌患者でも延長するがスガマデクスを用いた拮抗効果には影響がないこと、body mass indexの増加が直線的にロクロニウムの作用持続時間を延長させること、スガマデクスを用いたロクロニウムによる筋弛緩拮抗に加齢は影響を及ぼさないことなどについて報告してきた。
神経筋疾患については、筋緊張性ジストロフィー患者や球脊髄性筋委縮症患者においてもスガマデクスがロクロニウムによる筋弛緩拮抗に有効であることを報告した。現在は、重症筋無力症患者におけるロクロニウムに対する感受性およびスガマデクスを用いた筋弛緩拮抗後の再挿管予測因子について検討を重ねている。

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熊本大学医学部附属病院麻酔科

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