麻酔 anesthesia

  • 手術麻酔

    手術における麻酔の主な目的は、不快な記憶を残さず、手術侵襲による体の動きや循環変動を含めた生体反応の制御を行うことです。麻酔には大きく分けて全身麻酔と部分麻酔があり、部分麻酔はさらに区域麻酔(脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔、末梢神経ブロック)と局所浸潤麻酔に区別されます。当科では主に全身麻酔と区域麻酔の組み合わせで患者様の周術期管理を行っています。
    全身麻酔は、点滴から麻酔薬を投与したり呼吸で麻酔ガスを吸入したりして行います。手術中は麻酔薬を投与し続け、目が覚めたり痛みを感じたりしないようにします。
    脊髄くも膜下麻酔は臍より下の短時間の手術、硬膜外麻酔は細い管(カテーテル)を留置して開腹術や開胸術などの術後疼痛管理、末梢神経ブロックは術野に応じて四肢や体幹の疼痛管理のために行います。いずれの麻酔においても患者様の全身状態は急激に変化しますので、麻酔科医は、その刻々と変化する全身状態を管理します。
    原則として手術の前日に診察を行って麻酔法を決定しますが、患者様の状態によっては、麻酔が可能か、どの麻酔方法が適切かを事前に判断するために麻酔科医が診察する麻酔相談も行っています。

  • 心臓麻酔

    当院では虚血性心疾患、弁膜症、大血管疾患など年間300症例を超える開心術に加え、経カテーテル大動脈弁留置術や経カテーテル僧帽弁クリップ術など年間50症例を超えるカテーテル手術があり、ほぼ毎日心臓手術の麻酔管理を行っております。すべての心臓手術症例は循環器内科、心臓血管外科、麻酔科、手術室看護師、臨床工学技士などから成るハートチームを中心に術前カンファレンスを行い、万全の態勢で周術期管理を行っています。
    心臓麻酔では循環生理学、呼吸生理学、薬理学などの網羅的な知識と、中心動脈カテーテル・肺動脈カテーテル留置、経食道心エコー、神経ブロックなど様々な手技を必要とします。そこで、システム化した麻酔方法により高い麻酔の質と安全性を担保すると同時に、若手麻酔科医には心臓麻酔の習得に集中できる環境を整えております。加えて、心臓血管麻酔専門医や循環器内科のエコー医による十分なバックアップ体制を敷いております。また、県内の年間約120症例の小児心臓手術を行う関連施設で研修を行っております。
    各科との連携を深めながら、質の高い医療体制と教育環境を両立させるべく、日々奮闘しています。

  • 産科麻酔

    欧米では産科病棟に産科麻酔科医が24時間体制で勤務し、無痛分娩だけでなく緊急の帝王切開や産科救急にも対応し、分娩の安全性向上に大きく貢献しています。このような欧米型の周産期管理を実現するには、産科麻酔を担う麻酔科医の育成が急務です。本邦でも近年無痛分娩を希望される妊婦は増加し、安全な無痛分娩を提供するために麻酔科医の積極的な関与が期待されています。その新たな取り組みとして本寄附講座は全国に先駆けて2020年4月に福田病院のご協力により開講しました。
    本講座では術前評価としての産科麻酔外来、帝王切開などの産科手術、妊婦の非産科手術、産科出血などの産科救急および無痛分娩に対応しています。胎児治療など高度な周産期管理を要する医療においても関連各科とともに集学的医療を行い、週1回の周産期カンファレンスで産科、新生児科との情報共有、連携を図っています。
    研究においては妊娠糖尿病の病態解明への基礎研究、心疾患妊婦の周産期管理、無痛分娩における薬剤の新生児への影響などについて行っています。
    「母体救命コース」「硬膜外鎮痛急変コース」などの講習会や産科麻酔学セミナーを主催し産科医への情報提供を行い熊本県の周産期医療体制向上のために活動しています。
    産科麻酔科医を目指す方には研修プログラムも準備しています。ご興味のある方はぜひ問合せ下さい!

  • 区域麻酔

    区域麻酔には硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔、末梢神経ブロックがあります。全身麻酔と併用または単独で行い、手術中や術後の鎮痛に使用します。
    硬膜外麻酔は、背骨の中にある脊髄のすぐ近くの硬膜外腔に、1 mm程度の細いチューブを挿入し、そこから麻酔薬をいれて手術部位の痛みをとる方法です。
    脊髄くも膜下麻酔は、いわゆる下半身麻酔です。脊髄は脳脊髄液という液体で満たされた部分(くも膜下腔)に浸っています。ここに麻酔薬をいれて、痛みの伝達を一時的に遮断します。
    末梢神経ブロックは、手術部位に応じた末梢神経の周囲に麻酔薬をいれて痛みをとる方法です。全身への影響が少なく、血液が固まりにくい状態の方にも行うことができる場合があります。当科では、神経損傷等の危険性を減らすために、超音波装置や電気刺激法を併用して行っています。
    当科には、区域麻酔学会認定医や区域麻酔認定試験(J-RACE)合格者が在籍しており、より安全な区域麻酔の実施や教育に努めています。