研究 research

熊本大学麻酔科では、基礎・臨床研究をバランス良く行い、世界へ向けて情報発信を行っています。メインテーマは周術期臓器障害ですが、医局員が興味を持つさまざまな分野の研究をサポート出来る体制をとっています。
現在、基礎研究では周術期心筋障害の分子機序の解明と制御、妊娠糖尿病の病態解明、痛みのメカニズム解明と有効な鎮痛法の検討、麻酔器の構造と動作の研究、シミュレーターを用いた安全な麻酔手技の研究などを扱っています。また臨床研究では、新規鎮静薬であるレミマゾラムの性質の検討、心臓血管手術の術後認知機能障害への影響、周術期末梢神経ブロック法の検討、無痛分娩における薬剤の新生児への影響、最適な術前絶飲食の検討、新規生体モニターの性質の検討、術後悪心嘔吐の研究などを行っています。
麻酔科学が扱う分野は多岐にわたり研究対象は尽きることがありません。大学院生は随時募集しています。

基礎研究

麻酔と循環に関する研究:周術期心筋傷害の分子機序の解明:平田 直之 教授

手術中の血圧変動や酸素需給バランスの破綻により、心臓や腎臓で臓器傷害が生じることが知られています。
臓器傷害が生じた場合には術後30日及び1年後の死亡率が上昇することが臨床的に明らかにされており、
その対策が望まれていますが周術期臓器傷害の詳細な分子はまだよくわかっていません。
この機序を明らかにするために、心筋虚血再灌流傷害モデルや低血圧モデルを用いて
低灌流に続く再灌流時に発生する細胞傷害性の活性酸素種の動態をミトコンドリアレベルで解析を行っています。
また、手術侵襲による炎症反応と活性酸素種の相乗作用に注目しています。
基礎研究での成果を臨床現場に還元することを目標に取り組んでいます。

産科麻酔領域における基礎研究:杉田 道子 特任教授

妊娠糖尿病(Gestational diabetes mellitus GDM)は母体において合目的に引き起こされるインスリン抵抗性とそれに対する膵β細胞からのインスリン分泌のアンバランスで起こります。
GDMにより引き起こされる血管内皮障害は胎児や母体の臓器障害、動脈硬化、妊娠終了後の母児心血管リスク上昇と関連することが示唆されています。
しかしGDMにおける血管内皮障害発症とその細胞内メカニズムは未だ明らかではありません。
我々はGDMにおける血管内皮障害と細胞内シグナルとの関連を明らかにすることでその発症メカニズムを解明したいと考えています。

痛みの基礎研究:ラットを用いた薬物の鎮痛効果の検討:中村 真吾 助教

麻酔科医、集中治療医、ペインクリニシャン、緩和ケア医にとって「痛み」の制御は重要な課題です。
臨床現場で用いられている鎮痛薬には未解明の機序があります。また、分子生物学の発達により新たに発見された物質が鎮痛作用を持つことが示唆されています。私たちは、脳幹部から脊髄へ投射して痛覚伝達を修飾する下行性痛覚修飾系に着目しています。具体的には脊髄における痛覚伝達に関与する物質と、痛み行動との関係を明らかにしています。炎症性痛みモデル、熱性痛みモデルや神経障害性痛みモデルを用いて既存薬物・新規発見物質の鎮痛機序解明を行います。
痛みと鎮痛薬をより深いレベルで理解し、臨床現場での適切な痛み制御が実現できるよう研究を進めています。